2002年8月20日更新
主要論文
<特殊>な“了”―――近世白話から
☆日本中国語学会第33回全国大会にて口頭発表(於:北九州大学,1983年11月)
☆『中国語学』231号(pp25,38)(1984年10月)日本中国語学会
☆<全国第二届近代漢語研討会>(於:上海教育学院。1986年10月)漢訳提出論文
時態助詞や語気助詞の“了”は動詞や形容詞の後または文末に置き、完了・変化などを表す。
本稿で取り扱う“了”は時態助詞や語気助詞ではない。例を挙げる。
@二哥再吃几杯‘了’去。(『水滸』24回)
A做甚麼‘了’便没。(『水滸』24回)
我々が議論する“了”は完了、変化などを表さない。単なる「つなぎ」の働きがあるだけで、接続詞に酷似する。しかし、厳密には接続詞でもない。
この種の“了”は所謂、官話に存在しないが、蘇州土白に“咾”として見られる点は、宮田一郎1982「蘇州語の文法U」(大東文化大学『東洋研究』20周年記念号)、王力などによって報告されている。
筆者は、当時の北方官話で書かれたとされる『水滸』に呉方言の“咾”が“了”と表記され多く見られる点を指摘し、且つ、その後の消長をいくつかの代表的近世白話小説を中心に明らかにした。その結果、南方語系で書かれた資料にはその後も散見さられることが判明した。本稿は、
本稿は、官話にも呉方言の“咾”に相当する語(“了”)が使用されていた点を指摘した最初の論文である。
近代漢語中介詞“和、同、替”的特殊用法
☆全国第三届近代漢語研討会にて口頭発表(於:広東省・深せん大学,1988年9月)
☆安徽省『安慶師範学院学報』1989年第3期(pp16,23)(1989年9月)
☆『中国語研究』32号(pp12,31)(1990年10月)白帝社
現代中国語の介詞“和”“同”は「共同・協同」または「対象」を表し、一つのグループを成している。これに対して、“替”は「動機・目的」を表し、別のグループを形成している。この二つのグループは相互に排斥しあっていて、互換使用はできない。即ち、次の@AとBとの間には一般に互換できない。
@有事要和大家商量。
A我去年同小王住在一起。
B全班同学都替他送行。
ところが、近世語では必ずしもこのように厳密ではない。次の例CDは、現代語では一般的でない。
C晩夕三位娘子擺設酒肴和西門慶送行。(『金瓶梅詞話』第55回)
D“爾何不早説!”便和李云前拂了。(『水滸』第44回)
ここまでは、香坂順一1983『白話語彙の研究』、同『<<水滸>>語彙の研究』等ですでに触れられている(ただ、“替”の一部は取り上げられていない)。
本稿では、これらのことを踏まえて、次の点を新しい主張とする。即ち、
(@)『水滸』と『金瓶梅詞話』の重複箇所におけるこの種の介詞の書き換えが行われているという指摘。
(A)近世白話資料の主要な各小説『水滸』『金瓶梅詞話』『醒世姻縁伝』『紅楼夢』『儒林外史』などを時代別に並べての分布状況・作品間での比較検討をおこなう。
この結果、以下の点が明らかになる。
(1)介詞の特殊用法は『金瓶梅詞話』第1回〜第6回及び第53回〜第57回に多いのが判明。これは、『金瓶梅詞話』の原作者の手によって書かれた箇所ではないという理由が考えられる。
(2)介詞の特殊用法は『儒林外史』に多く見られる。これは、北方では既に消失していた用法であったが、南方系語彙の多く散りばめられた先品の介詞の特殊用法は『儒林外史』では依然として用いられていたのである。
近世中国語に見える否定副詞(上、下)
☆(上):『中国語研究』30号(pp18,27)(1989年3月)白帝社
☆(下):『中国語研究』31号(pp34,55)(1989年12月)白帝社
☆転載:「近代漢語所見的否定副詞」(pp52,81),『日本近、現代漢語研究論文選』(1993年10月)北京語言学院出版社
否定は、単純否定(叙述の否定)と禁止否定とに大別される。後者は筆者に別稿がある(「近世白話小説に見られる文言からきた禁止否定――“勿”“毋”(无)“莫”及びその類――」)。
単純否定とは、一般に(1)存在の否定、(2)動作の否定に分類される。北京語の単純否定である“没(有)”は(1)(2)の作用を共に有し、“不”“不曽”等と比較して特異な存在である。
“没(有)”の前は何であったか?即文言の“无”(無)・“未”ではなく、近世中国語で用いられている“没得”“未”“未曽”“不曽”“没曽”等、比較的多くの語が存在する。
しかし、『水滸』『西遊記』『金瓶梅詞話』『醒世姻縁伝』『紅楼夢』『儒林外史』などの明・清資料だけでも出現頻度は一様でない。
そこで、本稿は、単純否定を表す各々の語、特に、現代中国語の“没(有)”に相当する「動作・行為の否定」を表す語群“未”“未曽”“不曽”“没曽の変遷や特性などを探る。
この結果、地理的語彙と時代的語彙に大きく二分される。前者は、各時代の分布に無関係であるが、地理的分布(即ち、南北区域)に偏向性を示すのに対し、後者は地理的にほぼ全区域において使用されるものの、時代により盛衰が見られる語彙である。
前者には“不曽”、後者には“未”“未曽”“没(有)”が入る。ただ、“没曽”は、時代的にも地理的にもごく限定された性質を有する。
また、文言からの大きな流れは、明母から微母への音韻変化に伴い、“未”から“没(有)”へと交替していったのである。
『現代漢語詞典』中の<方>符号語彙の認定
☆復旦大学・中文系、中国語言研究所にて口頭発表(於:復旦大学、1996年9月)
☆日本中国語学会第47回全国大会にて一部口頭発表(於:東海大学、1997年10月)白帝社
☆『奈良産業大学紀要』13集(pp25,48),(1997年12月)
現代中国語における所謂“普通話”は、中国社会科学院語言研究所詞典編纂室編『現代漢語詞典』そのものであると考えられる。
この辞典には、様々な符号の標示があるが、とりわけ語彙の面では<方><書>などが代表的である(1996年刊の改訂版では<口>符号が削除)。
これらの符号は“普通話”の語彙の層を表している。即ち、“普通話”は通俗語、方言語、書面語など様々な語彙層から成り立っているのである。
筆者は、『現代漢語詞典』中の<方><書>符号の語彙を分析・整理し、どのような基準で各種符号が各々の語彙に冠せられたのか、試案を提出した。それは、拙文「『現代漢語詞典』中の<口>符号語彙の認定」(奈良産業大学『産業と経済』第10巻5号<1996>)、「『現代漢語詞典』中の<書>符号語彙の認定」(『奈良産業大学紀要』第12集<1996>)として既に報告している(この他、「『現代漢語詞典』の一般語語彙(普通語)に移行した<口>・<方>符号語彙について」<1998>、「『現代漢語詞典』中<口>語彙の行方」<1998>、「『現漢』からの“普通話”に入った常用語」<1998>などが拙文にある)。
本稿は、これらに続く第3弾である。
『現代漢語詞典』には、<方>符号を附する語彙が多数見られるが、その客観的選定基準が明確に示されているのではない。そこで、<方>符号語彙が冠されている語を分析・検討し、その理由を恣意的なものには依拠せず、なるべく客観的に構造面・形態面から示した。具体的には次の8項目が挙げられる。
(1)より“普通話”的ないわゆる「一般語語彙」などと対立する語。
(2)軽声語。
(3)児化語。
(4)旧語。
(5)北京方音の語。
(6)北京方言を中心に北方方言に残留する語
(7)呉、粤方言を中心に南方方言に残留する語
(8)表示が俗字(異体字)の語。
現代方言に残存する『醒世姻縁伝』中の語彙(1)〜(4)<待続>
☆第23回現代中国語研究会にて口頭発表(於:松山会館<西宮>、2002年1月)
☆浙江大学・日本文化研究所にて一部口頭発表(於:浙江大学<杭州>、2002年3月)
☆(1):『奈良産業大学紀要』16集(pp3,31),(2000年12月)
☆(2):奈良産業大学『産業と経済』16巻5号(2001年12月)、奈良産業大学『産業と経済』17巻5号(2002年12月)
☆(3):『奈良産業大学紀要』17集(2001年12月)、『奈良産業大学紀要』18集(2002年12月)
『醒世姻縁伝』中の語彙のうち、現代共通語(普通話)には存在していないが、現代方言に今なお生き続けているケースがある。これには、どのような語彙があるのか?また、どの方言区域に存在するのか?これらを明らかにできるようにした。
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