奈良産業大学産業研究所講演会

「2000年問題の現状と危機管理」


平成11年6月23日

於奈良商工会議所

奈良産業大学経営学部助教授

西岡茂樹

 

1.2000年問題は嫌われ者

 先程、前川正治氏から懺悔のような講演がありましたが、つまり企業にとっては、2000年問題に対応しても、何ら新しい価値を生み出すわけではないということです。新しいビジネスを展開するために、どうしてもあるシステム作らなければならない場合、つまり生産的なテーマであるならば、企業もそこに投資して何としても期限に間に合わせてやっていこうということになります。しかし、繰り返しになりますが、2000年問題というのは、それに対応したからといってなんら新しい価値を生み出さない。つまり、過去に私たちが行ったミステイクを取り消すための対応になるわけで、話が非常に後ろ向きなんです。

 例えばコンピュータ部門の人が経営者に対して「うちの会社の情報システムが2000年問題を抱えている。2000年になるとコンピュータは1900年と勘違いしてトラブルを起こしてしまうので、システム修正のために予算を組んでほしい」というようなことを経営者に言ったとしても、経営者はそれに対してなかなか理解を示さない。コンピュータの素人からすると当たり前なんです。2000年が来るのが分かっていたにも関わらず2桁対応してきたのは職務怠慢なんです。特に、日本の経営風土においては、こういう後ろ向きなことに、なかなか経営トップの理解が得られない、あるいは理解をしてもらうような形で話が進まない。つまりコンピュータの2000年問題というのはコンピュータ部門の問題であり、その部門で頑張って直せばいいではないか。私は営業だ、私は総務だから関係ない、ということになってしまう。実はそこに大きな問題があるのです。

 

2.ケルン・サミットG8首脳宣言が語る2000年問題

 

そもそもこの2000年問題に関しては、非常に温度差があります。世間ではマスコミ等で広く報道されているにも関わらず、非常に温度差があるのは事実です。

しかしこの事実を皆さんはどうお考えでしょうか。

 先日のケルン・サミットが終わった時点でG8首脳宣言が出たわけです。その中でY2K(2000年問題)が、はっきりと採り上げられているのです。もちろんこれまでにも何度か採り上げられていますが、今回のケルン・サミットでは、かなり明確で強い内容のものが出されました。

 その内容はどんなものかというと、まず原子力の安全の分野で国際的な協調努力をしましょう、そしてY2Kの影響を最低限のものにするための計画を引き続きやっていきましょう、と言っている。これは裏を返せば、原子力分野で影響が全くないということは、もはやあり得ないということです。

 それから次に、エネルギー、電気通信、金融サービス、運輸と医療という部門、防衛、環境と公共の安全という主要インフラ部門に高い優先度を与えるべきである、と言っている。これは裏を返せば、これ以外の部門などには2000年1月1日までに手を回しているような余裕はない、ということを言っているわけです。

 今年後半に非常時対応計画に関するG8特別会議を開催すると言っていますが、今年の後半にそんなことをやって何の意味があるのかと思うのですが、皆でいよいよ覚悟を決めよう、というようなことを確認する会議ではないかと思ったりするのです。

 このような内容がG8で採択されているのです。もしY2Kが、企業や行政などの単なるコンピュータシステムの問題であるとするならば、G8でここまで採り上げられるはずはありません。つまりY2Kは、地球規模の大問題になってきているのです。

3.Y2K問題の広がり

 

 Y2K問題の広がりについて説明します。

 Y2Kは、元々は単なるコンピュータの問題でした。これがアメリカにおいて盛んに言われるようになったのは1980年頃からです。ところがその問題がどんどん広がってきたわけです。その一つは埋め込みシステムの問題。これが2年ほど前に、やはりアメリカから狼煙があがったわけです。従って、これについての本格的な研究や取り組みは、まだ2年間ぐらいしかできていません。そして最後にネットワーク化の問題です。この三つについてそれぞれ説明します。

 次にネットワーク化の問題です。

 要するに単独で存在しうる企業などはほとんどない。例えば、最近、注目されているサプライチェーンという供給の連鎖を考えると、製造業は、資材メーカーや部品メーカーからの供給なしに製造は不可能です。出来た製品は卸売業、小売業を経て消費者の手に渡る。その間、物流業者や金融業者が縦横に絡んでいる。そしてそれぞれの企業は業務処理をコンピュータ化しており、企業間の取引も相互のコンピュータを通信回線で接続してデータをやりとりしている。そうなると自社だけがY2Kに対応しても、接続先の企業が対応していないと、結局、商品供給の流れが断絶することになります。

 例えば大手小売業は早くからY2Kへの取り組みを進めていますが、自社のシステムが完璧になりましたと、言っても殆ど何の役にも立たないわけです。つまり、店の棚に並ぶ商品を供給してくれる取引先の卸売業が、きちんとY2Kに対応しない限り、いくら大手小売業だけが頑張っても駄目なのです。同じことはあらゆる種類の取引にも言えることです。

 今日、お越しの皆さんにもご経験があるかもしれませんが、大手小売業は早くから対応を進めていますので、大体、自分ところは目処がついたという状況です。それで今、どういう段階に来ているかというと、取引先企業を集めて、2000年以降もオンラインで発注しても、今のサイトできちんと納品してくれるんだね、という確認をとりつつあります。さらに本当にちゃんと動くかどうか、接続テストをやろうとしている。このことは、下手をすると、Y2Kに対応出来ない卸売業は取引を停止されるという事態が起こりかねない。取引先の選別化にも繋がりかねないという問題になってきています。

 従って、Y2Kは、自分のところだけがちゃんと対応出来たら大丈夫という話では全くない。社会全体、あるいは地球規模で対応していないとだめだと、いうことになるわけです。

 次に、埋め込みシステムの話です。

 これは2年前からようやく着目され始めたわけですが、要するに指の先に乗るような小さなマイコンチップの中にコンピュータとプログラムが埋め込まれて稼働しているわけです。現在、私たちはコンピュータを生命維持装置として生きている生物であるとも言われています。電気にしろ、水にしろ、ガスにしろ、お金にしろ、交通にしろ、膨大な数のマイコンが働いているから、私たちはそれを利用することができるのです。

 例えば、皆さんは、家で美味しいご飯を炊いてくれているのはお母さんだと思っておられるかも知れませんが、実は、おいしいご飯を炊いているのはお母さんではなくて、電気炊飯器を作ったメーカーのプログラマーであるわけです。つまり、プログラマーが美味しいご飯を炊けるプログラムを作り、炊飯器に搭載されたマイコンチップがプログラム通りに炊いているだけのことです。

 また、ごく普通の自動車にも最低50個位のマイコンが搭載されています。エンジン制御、ブレーキ制御、ありとあらゆるコントロールがコンピュータ制御になっているわけです。勿論、飛行機はマイコンの塊です。

 普段、我々がお世話になっている水は、勝手に流れてくるわけではなく、適量の水を適切に分配するための水道の情報システムが裏で支えてくれているから蛇口を捻ると水が出てくるわけです。浄水場もコンピュータ制御です。ガスもそうですし、電気もそうです。

このように、私たちの現在の生活はマイコンを生命維持装置として成り立っているという状況であるわけです。このマイコンにもY2K問題が存在していることが認識されたのは2年前なんです。

 ガートナーグループというアメリカの調査会社がありますが、そこが調べた結果は、全世界に約500億個のマイコンチップがある。それは機械の中に埋め込まれているわけで外からは見えない。その内の約1パーセントがY2Kの問題を抱えているというレポートがあります。500億個の1パーセントというと5億個です。世界中の5億個のマイコンチップが2000年1月1日に誤動作をする、あるいは動作を停止する可能性があるというレポートです。

 これは一例ですが、アメリカのヒューレット・パッカードという計測器から発展した電子機器会社がありますが、この会社がカラーのレーザープリンターを発売した。ところが、実はこれはキャノンのOEMなんです。そしてHP社は、このカラーレーザープリンターが2000年になって動作停止あるいは誤動作をしないか心配した消費者から問い合わせを受けた。するとHP社は自分のところでは答えられない。キャノンで作ってもらっていますから。従って日本のキャノンに「お前のところで作ってくれたこの製品はY2Kに対応しているか」という質問がくるわけです。キャノンはどう答えるかというと、キャノンは答えられない。なぜかというと、レーザープリンターのあの小さな機械ですら約2000社の様々な部品メーカーの部品をアッセンブルして作られています。もちろんキャノン独自のもの一部あるのでしょうが。そこで今度はキャノンが部品メーカー2000社に対して、お前のところの部品はY2Kに対して大丈夫かという問い合わせをすることになる。そして、2000社全てからOKという返事が返ってきて初めて、HP社に対してOKだという返事が返せるわけです。2000の内、仮に1個に問題があっても、その1個がプリンターを動かすためにどうしても必要な部品であったとするならばだめなわけです。

 このような状況は、今、いろんな機器メーカーで起こっています。つまり、自社の製品の中に埋め込まれているチップは本当に大丈夫なのかということを真剣に心配し始めています。アメリカでは、質問状を部品メーカーに送りつけるという「レター爆弾」あるいは「紙吹雪」、「ペーパーブリザード」が吹き荒れています。

 先程のサプライチェーンの問題もそうですが、日本でも「おたくのコンピュータはY2Kに対応しているだろうね」というようなアンケートが続々と得意先から送られてくるという事態が起こっています。それに答えるために担当者が忙殺されている、というような話しも耳にします。

 このようにY2Kというのは単なる自社のコンピュータの問題ではありません。サプライチェーンに存在するすべての企業のコンピュータシステムがきちんと動かないとだめであり、さらに、無数と言ってもいいくらいのマイコンが埋め込まれているインフラが機能しないと、すべては砂上の楼閣です。

つまり、このY2K問題は、単になる技術の問題ではなく、一企業の経営の問題だけではなく、業界の問題だけではなく、日本の国だけの問題でなく、地球規模での社会問題であるというとらえ方をすべきであるということです。

今日は、このことをどうしても先ずお伝えしておきたかったのです。

 

4.アメリカのY2Kへの対応

 

 さて、かなり早くから取り組みがなされてきた米国の状況を見てみましょう。

 米国の政府の対応は、まず1998 220002000

 アメリカの状況と日本の状況との根本的な違いは何かというと、要するにアメリカは、すっかりガラス張りなんです。アメリカでは、情報公開が非常に進んでいる。そして公開された情報を第三者が監査する、チェックするというシステムが出来上がっています。

 情報公開に関しては、去年10月に出来ました、「Year 2000 Information and Readiness Disclosure Act」というY2Kに関する情報公開法案にクリントン大統領が署名し成立しました。これは何かと言うと、Y2Kに関する様々な情報をどんどんお互いにオープンしましょう。そのオープンした情報がもし間違っていたとしても、故意あるいは悪意によるものでない限り、そのことによって生じた損害等については訴訟の対象にならない、というようなものです。

 企業はそれまでY2Kに関する情報公開については消極的であったわけです。下手な情報公開をして、もし仮に問題が起こったら「お前のところは、こう言ったではないか」ということで訴訟の対象になりかねない。そこで、例えば自分のところの製品のこのへんに問題があるということが分かっていても、それはなかなか公開されなかったのです。主要取引先にだけ伝えるとか、そういうレベルの話であった。

 これではいけないということで、この情報公開法が去年の10月に制定された。今、アメリカの企業のホームページをご覧になるとお分かりのとおり、「ディスクロージャー法によってこの情報を提示しています」というようなことが書いてあります。例えばマイクロソフトのホームページには、マイクロソフト西暦2000年対応情報開示リソースセンター、西暦2000年問題に対するマイクロソフトの考え方として「Micorosoftの対応表明は保証ではなく、かつ既存の保証条項を拡張するものではありません」「西暦2000年問題についてMicorosoftが提供する情報は、お客様の西暦2000年への移行計画を支援する目的でのみ提供されるものです」と書かれています。これは抜粋ですが、要するに、この中身はディスクロージャー法に従ってこの情報を開示していますということがちゃんと書いてあります。つまり、ここで開示されている情報はその時点でその会社が正しいと判断してオープンにされた情報です。しかし、それはその時点の状況であって、必ずしも真に正しい情報であるとは限らないわけです。現に昨年発売されたWindows98は2000年対応済みということでしたが、発売後、3〜4か月ぐらい経ってから、小さな問題がありましたと開示されたわけです。つまり、発売時点ではWindows98には問題がないと考えられていたのですが、しばらくたってから、あるきっかけで問題があることがわかったということです。

 ソフトの世界では、こういうことは多々あるわけです。先程の前川さんの話にもあったとおりです。従ってY2Kに関しては、多少の不確定要素も含んでいても、ある程度明らかなことはどんどん情報開示しましょう。それを伸ばし伸ばして1999年12月に開示されても何の役にも立ちません。故意、あるいは悪意による誤った情報の開示でない限り、それは訴訟の対象にはしませんという法案です。これによってアメリカの情報開示は随分進みました。

 もう一つの第三者によるチェックという話ですが、やはりアメリカではかなりシビアです。日本の場合は不良債権がはじめ言っていた額と蓋を開けたら天と地ほど違っていた。結局内部のチェックが全然入らない。ですから、ある企業がうちはY2K問題は大丈夫と言われても、本当にそうなのかなあと疑ってみたくなります。つまり第三者が検証しているかどうかが問題なのです。

 アメリカの場合は徹底していまして、例えば、アメリカの国防省が膨大なシステムを持っていますが、そのうちの何パーセントが対応完了しましたと、いう報告が3か月おきに発表されます。それが本当かどうか、必ずチェックが入るわけです。その結果、対応したつもりだったが、実は誤りでダメでした、ということが明らかになり、進捗率が50%と報告されていたものが実は35%であったというような新しい報告が後日出たりします。

この情報公開法とチェック体制については、日本は大いにアメリカに学ぶべきではないでしょうか。

 

5.通常のソフトバグと2000年問題の相違点

 

 アメリカのある協会が、アメリカの大企業のY2K対応に関して調査を行い、その結果が、6月19日付けのある新聞に発表されました。それによると大企業の92%が未完了です。50%が2000年末までに完了できないというアンケートが返って来ています。大企業ですらこの有り様ですから、中小企業は言わずもがな。そういうわけで、もはやY2K問題をパーフェクトにクリアするなんてことは、世界中の誰も信じていないわけです。

 何も起こらないなんてことはあり得ない。必ず何かが起こる。

 ソフトウェア開発を経験された方はお分かりのとおり、先程のご講演にもありましたように、ソフトウェアの正確さを100%保証するようなテストは先ず出来ない。企業の基幹システムのような大きなプログラムになると、100%の保証をするためには、無限通りに近いテストをする必要があり、それは不可能です。そのような100%のテストをして動いている基幹システムは、世の中に一つもありません。ここまでテストすればOKにしよう、というような割り切りが起こっています。想定しうるケースの、恐らく1/100

 現に、そんなことがたびたび起こってマスコミを賑わせています。NTTの交換機がダウンしたり、銀行のATMがとまったり。それらは2000年問題ではない。コンピュータのソフトウェア、ソフトウェア・エンジニアリングの問題として100%正確なソフトウェアを作ることは不可能に近いということに起因するわけです。

では、通常のトラブルと2000年問題によるトラブルと、何が根本的に違うのかというと、通常のトラブルは、いわば個々のシステムの環境や事情により、地理的にも時間的にも散発的に起こっています。

例えばNTTの交換機のプログラムミスで、新しくソフトを入れ換えた時に交換機が止まって電話が5時間も普通になった。これはNTTが入れ換えた新しいソフトのテスト不十分のために起こった問題です。もちろん他の企業には全く無関係の話しです。またある時にクレジットカードを使おうと思った所、何時までたっても返事が返ってこない。クレジットオーソライゼーションのためにNTTデータのCAFISというネットワークを使っているのですが、CAFISのシステムがダウンしたわけです。しかし、これまた他の企業には全く無関係の話しです。つまりこれまでも、社会的な混乱を引き起こしたコンピュータトラブルは山ほどある。しかしそれらは個々独立しており、他には影響を与えない形で散発的に起こっていました。

ではY2Kはどうか。ある特定の日時において、集中的に同時多発する可能性がある。しかも、大きな何億円というコンピュータから日本橋で数万円で買える小さなコンピュータまで、ありとあらゆるコンピュータにその問題が潜んでいる可能性があるわけです。そして、それらが100%テストされているということは100%ないわけです。ここが従来のコンピュータトラブルと決定的に違うところなのです。

 

6.危機管理計画の策定

 

 もはや100%クリアということはあり得ない、ということは世界的に認識されています。ではどうすべきかというと、もちろん最後の最後まで修正の努力を行うことは言うまでもありませんが、それに加えて、もしトラブルが起こった時にはどう対処すべきか準備しておきましょう、今はそういう段階なっているわけです。

 今から年末まで必死で頑張ってプログラムを修正をしてもアメリカの大企業でも10%は間に合わないと言っているわけです。ロシアの2000年問題の対応は、ロシア政府によると、対策を完了するにはあと3年、10億ドル必要、約2割のシステムがY2Kに見舞われるだろう、と言われています。欧州開発銀行は70万ドルを供与、CIAによると原子炉のY2Kの調査は困難、天然ガス・パイプラインの運用システムにはY2Kトラブルが危惧、ミサイル等の誤発射は心配ないが、早期警戒システムの誤動作による誤った情報が流れる可能性がある、などと報告されています。

 従って必ず何かが起こるから、それが起こった時に対応出来るような危機管理計画を作りましょう、という段階になっています。

 日本政府もそのことについて、今年の5月に「企業のための危機管理計画策定の手引き」を発表しました。最寄りの中小企業情報センターにいけばタダでくれます。

 この手引書によると、まず、主要な業務を洗い出しなさい、と言っている。すべての業務まで手を出すと間に合わず、かえって中途半端になるわけです。その中で業務がどう流れていて、そこでどんな資源を使っているのか。例えば電話を使っているのか、FAXを使っているのか、インターネットを使っているのか、企業間取引のEDIオンラインを使っているのか、そういったいろんなコンピュータに関わる資源と業務を関連付けて、万が一それがダウンした時の影響はどうか、何日までのダウンならば復旧まで耐えられるか、代替手段はあるのか、などを詳細に検討し、その結果をマニュアルにまとめるのです。

 先程、皆様にお願いしましたアンケートを拝見しますと、もう既に危機管理計画を策定したとお答えのところも幾つかあるようです。

 このようにY2Kを100%クリアすることはあり得ない、という認識のもと、危機管理の問題になっているわけです。

 最近の新聞記事からいくつかご紹介しますと、例えば6月17日のアメリカの原子力規制委員会は大晦日の夜は、関係者は原発に泊り込むよう指示したようです。また関西電力では、大晦日の夜は2000人を動員するということです。聞くところによりますと、東京の12月31日のビジネスホテルは殆ど一杯で部屋がないそうです。何か起こった時にすぐ会社に駆けつけられるように、とのことでしょう。

 

7.個人と2000年問題

 

 Y2Kは企業や行政の問題であると同時に私たち個々人の問題でもあります。

 例えばコンビニのサプライチェーンが崩れると、あっという間にコンビニの棚から物がなくなるわけです。トヨタの看板方式でジャストインタイムで物が入ってくる無在庫経営です。弁当、惣菜関係は一日に2便とか3便配送しています。その物流がちょっとトラブルともう弁当が入ってこないわけです。これは些細な一例ですが、Y2Kは、間違いなく消費者、一般市民に影響が及びます。

アメリカの場合は、国民への呼びかけが既に随分となされています。例えば、連邦緊急事態管理局(FEMA)は冬の嵐に備えるのと同様、3日分の食料と水を用意しなさい。アメリカの赤十字は少しトーンが違っていて1週間分の水、食料、いつもより多い手持ちの現金、調理器具、防寒具、非難所へ行く準備をしなさい。国務省は海外旅行に注意しなさい。つい最近出た大統領諮問委員会からの呼びかけは、地域の市民レベルで準備策を考えておいてほしいというものです。要するに町内会で地域ぐるみで対策を考えてほしいと言っているわけです。

 Y2Kの問題が、もし電気、ガス、水道、通信、交通などインフラレベルで起こってきた時には、何処かの家だけが生き延びることなんて不可能なわけです。一人で生き延びたいと思っている人は田舎に疎開しているようです。アメリカの著名なプログラマ、要するにコンピュータのことをよく知っている人ほど、この問題は絶望的だと言って、都会を離れて砂漠の真ん中に家を建てて、自給自足の態勢に入っています。

 緊急用の備蓄食料とか、ポリタンク、発電機とか、そういうものが品切れ状態で年内にとても製造が間に合わないということのようです。

 日本の場合は少しこれとは様子が違うと思います。阪神大震災の時、あれだけのことが起こりながら殆どパニックにならなかった。これは海外からの驚きの目で見られています。

しかし、今回も同様にうまくいくかというと、必ずしもそうとは言い切れない。阪神大震災の時はその地域だけの問題で、大阪や京都の人間は援助が可能でした。日本中の消防車が来て救出したわけです。

 しかし、今回は地域限定ではない、日本国中で同時多発するのです。ですからやはりそれ相応の万一の備え、準備が必要だと思います。

 Y2Kの問題は、楽観論と悲観論の間に大きな温度差があります。

 楽観論は、ちょっと何かあるかも知れないが大したことにはならない、そういう立場です。もちろん楽観論者も、いつもよりはちょっと不便な状況が起こるかもしれないね、ということは認めている。例えば、ある会社の物流システムが3時間ダウンして、コンビニに行っても弁当がないというようなことはあるかもしれない。しかしその程度のことならば、ちょっと我慢すればなんとかなる、というレベルで問題を捉えています。

 一方、悲観論は、最悪のシナリオでは、地球崩壊の危機というレベルまであります。

 いずれにしろ、何かが必ず起こるというのは衆目の一致した意見ですから、それに対する準備が必要でしょう。それが危機管理計画であり、先程の町内会、地域ぐるみでの取り組みの必要性であります。

 

 

8.Y2K対応完了の落とし穴

 

 中小企業の対応状況については、大企業ですら先程のような有り様ですから、たいへん厳しい状況です。中小企業の方は、とにかく今は倒産するかどうかという瀬戸際の時なので2000年問題なんかには手が回らないという話もあるようです。

 統計でもハッキリ出ています。大体そういう統計、アンケートは安全目に書いて出していると考えるべきです。これより良いことは絶対ないわけです。対応が完了したというのは甚だ不安定な表現でして、対応完了というのは正確な意味ではあり得ない。100%対応完了というのは基本的には絶対あり得ないわけです。ということは、統計レポートよりも実際が良い状態であることは絶対にない。

 一例をあげますと、サムソナイト社では、Y2K対応に、1000万ドルをかけてプログラムを修正した。けれど新システムに切り替えた途端、ダウンして3週間もシステムが止まってしまい、逆に1400万ドルもの損失を被ったという話があります。

 つまりY2K対応の修正作業においてもミスが紛れ込むわけです。ですから、対応を完了したと思っていても、実はそこに新たな問題が潜在している可能性もあるわけです。

 つい先日、アメリカのある新聞の記事ですが、アメリカのどこかの州で下水道システムのプログラムをY2K対応のために変更した。それを実際にテストしたところ、下水が溢れてきてたいへんなことになった、というようなトラブルも報告されていました。

 このように、プログラムの修正というのはそんなに簡単ではない。しかもそれを完璧にテストするのは不可能です。従って、今後、残された6か月でどう取り組むか。それは技術の問題でなく、経営の問題です。経営の問題は当然社会の問題でもありますので、日本国中の問題であり、地球規模の問題であるわけです。

 ですから、とにかく最後まで諦めないでやる。やっても100%間に合わない。だから万一に備えて危機管理計画を立てましょう、ということです。

 

9.Y2Kに弱い日本の特殊事情

 

 さらに、日本の特殊事情ということもよく踏まえておく必要があります。

 アメリカのエネルギー資源、食糧資源はその気になれば全部国内で賄える。ところが日本のエネルギー資源は100%輸入です。石油にしろ、ガスにしろ。食糧も大部分を輸入に頼っている。例えば、石油とかガスはどういう国から輸入しているかというと中近東とか、インドネシアとかですね。そういった国のY2K対策がアメリカや日本のようになされているということは極めて考えにくい。ということになると非常に悲観的に見ると、石油供給、天然ガスの供給とか、食糧が完全にストップする状況があり得るわけです。石油を掘っている国々の人々の命の糧となる水は海水淡水化装置で賄っているわけです。それらの装置はマイコンの塊です。ほとんどが日本とかいろんな先進国から輸出しているわけです。

 これらのことを考えると、日本の場合はアメリカなんかに比べて格段に心配な要素があります。関西電力のホームページを見ますと、社内システムは対応完了、または年内に完了予定と書いてある。ところが社外システムの中のいくつかの一つに燃料の調達先という項目があるのですが、石油およびLNGの主な調達先の対応状況については、現在の対応状況を確認したところであり、今後も継続して情報収集を実施する予定です、と書いてあります。

 これは非常に重要な問題を含んでいる可能性があります。その事は識者の間では相当指摘されているのですが、一般の方にはまだあまり知られていない。最近、テレビや新聞の報道でもかなり出て参りましたが、ここまで突っ込んでものを言っているところはあまりない。 私も、かなり気を使って発言しています。誰だって狼少年にはなりたくない。狼が来るぞ、来るぞと言っていて来なかったら、「お前が狼が来ると言ったからこれだけ金をかけてソフトを作ったのに」と言って袋叩きにあう。かと言って何もありませんよと、絶対大丈夫ですと保証して何かあったらやっぱり袋叩きにあうわけです。

だからマイクロソフトのように、あくまでもお客様の移行措置を支援する目的で情報提供しています。要するにそういうスタンスでしかものが言えないわけです。これらの状況が2000年問題の実態を分かりにくくしています。

 

10.危機管理計画はすべてオーダーメード

 

 さて、危機管理計画は、企業によって、あるいは人によって全然違います。例えば都会のど真ん中に住んでいる人は井戸水はないわけです。だから水の確保というのは特に重要な問題で危機管理計画の冒頭に書かないといけないかも知れませんが、田舎に住んでいる人は横に小川が流れていて、水についてはそんなに心配していません。

 企業の例でも、ある企業にとっては例えば物流が命であり、別の企業では決済システムが命であったりします。生鮮食品などの鮮度の高い商品を取り扱っている会社の危機管理と、日用雑貨を取り扱っている会社の危機管理は、当然、かなり異なったものになるはずです。

 各企業、あるいは各個人が置かれている個々の環境に応じて、ベストの対応策を検討せねばなりません。残された時間と資金と人材を、どう最適配置するかが重要であります。

 それでは、一応、私の話はここでひとまず終わらせていただきまして、後はご質問を頂戴して、前川さんと二人で答えさせていただきたいと思います。